脳のような柔軟な人工知能の設計原理
脳のように状況に応じて柔軟に対応可能な人工知能の実現を目指して,人間の脳の情報処理メカニズムを研究しています.現在の人工知能は,脳を模倣するニューラルネットワークにより,優れた情報処理性能を有するに至っています.しかし,汎用的な知能の実現にはほど遠く,人間のように状況に応じて柔軟に対応することは難しいと考えられています.また,人工知能を学習させるためには大量のデータを必要としますが,将来的には良質なデータが枯渇することが危惧されています.
このような現在の人工知能の限界を突破するために,人間の脳を調べることで新しい人工知能の原理を探索しています.「三人寄れば文殊の知恵」と言われるように,人間はコミュニケーションを通じて,一人では成し得ないような優れた解決策を見出すことができます.そこで,コミュニケーションをしている人間の脳を対象として,脳波やMRIを用いた先端的な脳計測技術を駆使して,柔軟で優れた知能を創発する脳のメカニズムを探求しています.
ブレイン・コンピュータ・インタフェース
脳の情報を直接的にコンピュータで読み取る技術であるブレイン・コンピュータ・インタフェースを開発しています.私たちの脳内では,言語情報や運動指令情報は電気信号として表現(符号化)されています.この電気信号を脳波計測装置により測定して,その信号がどのような言語情報や運動指令情報を表現しているのかを解読(復号化)する技術開発をしています.
脳から情報を取り出すブレイン・コンピュータ・インタフェースに加えて,脳活動を操作することでコミュニケーションを変容させるための技術を開発しています.これまでに実施してきた脳研究において,コミュニケーションは他者の脳活動とのカップリングが深く関与していることを示しています.この脳カップリング状態を頭皮上からの電気刺激により操作することで,コミュニケーションを支援する技術を目指しています.
メタバース/バーチャルリアリティの基幹技術
メタバースやバーチャルリアリティなどの人工現実空間における没入感を向上させるための基礎技術を開発しています.メタバースなどの人工現実感技術は,エンターテイメントのみならず,教育システムや住宅環境デザインなどの設計分野においても重要性が認識されており,今後,さらに多くの分野で活用されることが期待されています.
人工現実感技術の重要な要素として,操作者とアバターとの融合技術が注目されています.例えば,従来の人工現実感における没入感を超える概念として,メタバースを題材としたアニメ映画「竜とそばかすの姫」の細田守監督は,操作者とアバターとの融合技術「ボディシェアリング」を提唱しています.しかし,現状では操作者とアバターを融合させる技術は確立していません.そこで,人間の脳のメカニズムに基づいて「ボディシェアリング」を実現することで,従来の人工現実感を超える技術を目指しています.