活動報告

ボリュームレンダリング

 19年度前期ボリュームレンダリングの講義で行った、数学・物理科学・化学・生物科学の事例学習の可視化結果をご紹介します。

数学

math1
密度関数の可視化
math2
出発点を増やした場合

 Brown運動とは、元々は花粉の微粒子が液体などの媒質中で不規則に運動するものである。この「不規則な動き」を数学的に定式した「数 学的Brown運動」は、非常に重要で応用範囲の広い確率過程であり、様々な確率微分方程式や偏微分方程式に用いられている。

 ボリュームレンダリング講義(数学)では、3次元Brown運動の密度関数の可視化を行った。ある空間内の1点から出発した粒子がBrown運 動をするとき、その粒子のt秒後の位置はどこにいるとは特定できず、存在確率の大小を密度関数という形で表すことになる。その密度関 数の可視化を、

などの観点も加えて講義・演習と行い、理解を深めた。

物理科学

1s0
図.1s0
2p0
図.2p0
2p1
図.2p1
2s0
図.2s0
3d0
図.3d0
3p0
図.3p0
4d0
図.4d0
4f0
図.4f0
4p0
図.4p0

 ボリュームレンダリング(物理)の課題は水素原子の波動関数である。よく知られているように、水素原子は正の電荷を持つ陽子と負の電荷を持つ電子との間に働くクーロン力によって束縛状態が形成されているもっとも簡単な構造の原子である。この水素原子の系は量子力学の基本方程式であるシュレディンガー方程式が解析的に完全に解ける数少ない例の一つであり、物理的に非常に重要な意味をもっている。 シュレディンガー方程式の解として与えられる水素原子の様々な状態の違いは3つの量子数の組(nlm)を用いて記述可能である。ここで、nは主量子数と呼ばれる動径方向の様子を示す状態量で自然数1,2,3,…の値をとる。 lは角運動量量子数で0からn-1までの整数値をとる。lの異なる状態は化学的性質に反映するため、lの夫々の値に対して特別な名前s波(l=0), p波(l=1), d波(l=2), f波(l=3)がつけられている。mは方位(または磁気)量子数で-lからlの間の整数値をとることが可能である。

 上図は各量子数の組nlmに対応する波動関数の絶対値の2乗、すなわち、電子の存在確率の形状を示している(図の名称が量子状態nlmに対応)。量子数の組の違いにより電子の確率密度関数がさまざまな形状を示すことを明瞭にみることができるであろう。特に、s波が球状、p-波が団子やドーナツ形、d波が4つ葉状、d波が6つ葉状、の形を持つことに注目してもらいたい。このような形状の変化は、原子や分子の物理的性質や化学的性質を理解するための基礎となっている。

化学

homo nexthomo lumo nextlumo

 物質の反応性や性質はその電子状態に大きく依存する。そのため現代の化学では日常的に分子や結晶の電子状態を量子力学計算が行われ、物質の化学的性質の理解に利用されている。しかしながら計算機から出力される計算結果は数字の羅列であり、化学的考察を行うには何らかの方法で可視化する必要がある。

 ポルフィリンは植物の光合成色素や我々の体の中で酸素を運搬する分子の基本骨格である。今回の演習ではポルフィリンについて分子構造を密度汎関数法(B3LYP/6-31G(d))で最適化し、その構造を用いて計算した分子軌道の一つを可視化を行った。可視化のためのデータは分子軌道の出力結果から88×88×40のボクセルデータを作成したものを使用した。灰色の球が原子(水素、炭素、窒素)を表し、赤および青で示しているものが分子軌道である。このような分子軌道の形やそのエネルギーからその分子の反応性や光吸収などの物性を理解することができる。

生物科学

 脊椎動物の視覚器である「眼」において、外界からの光情報はレンズなどの光学系をとおり、網膜と呼ばれる薄い膜状の組織に結像する。網膜には、光情報を最初に受容する視細胞、視細胞からの光情報と処理するニューロンである双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞と最終的に網膜で受容・処理された光情報を脳に伝達する神経節細胞の5種類の神経細胞が存在する。今回の演習で用いた画像は、脊椎動物において最も原始的である無顎類のカワヤツメ、Lethenteron japonicum、の網膜に見られる神経節細胞である。カワヤツメ側眼の神経節細胞には数種類の神経節細胞が存在するが、その中でも特に大型の神経節細胞の画像を今回の演習では用いた。

bio1
神経節細胞の可視化
bio2
断面の可視化
一覧へ戻る