理学部 情報科学科 3回生 175番 常道 郁子 Ikuko_T@msn.com
計算機システム論課題:「SETIについて」
第1章「SETIの誕生とその背景」
SETIとは、Search for Extraterrestrial Intelligence、つまり地球外文明探査のこと
です。昔から宇宙の他の天体には、他の生命体が存在するのではないかと言われて
きました。1950年代の終り頃、『ネーチャー』誌にジュセッペ・コッコーニとフィリップ・
モリソンが論文「星間交信の探索」を発表したのがSETIの始まりだと言えるでしょう。
その論文には、もし宇宙人が地球に向けて信号を送っているとすれば、中性水素原子を
元にした波長21cmの電波がもっとも可能性が高いと主張しました。何故ならこの電波は
宇宙ではありふれた電波であり、所謂宇宙人が実際に存在して他の星の知的生命体と
意思の疎通を図りたいと思った場合、きっとこの波長を使うだろう、と考えられたからです。
時代的な背景としては、1947年にアメリカのニューメキシコ州
ロズウエルで起きた、 宇宙人が生きたまま回収されたと噂されたロズウェル事件など、真偽はともかくとして、
宇宙人が関係していると思われる出来事がこの頃に多く起こり、人々の関心が宇宙の
特に知的生命体に向けられ始めたことにあります。
第2章「SETIのプロジェクト」
世界初のSETIプロジェクトは1960年の「オズマ計画」と呼ばれるものでした。この「オズ
の魔法使い」に出てくる女王の名に由来するプロジェクトでは、フランク・ドレークが、西
バージニア州グリーンバンクにある電波望遠鏡で宇宙人からの電波を探査しました。
ドレーク博士がこの時に電波望遠鏡のアンテナを向ける先に選んだのは、太陽によく似た
エリダヌス座ε星とくじら座γ星でした。残念ながら、そのプロジェクトで受信できたのは
地上からの電波のみで、宇宙人からのメッセージは発見できませんでした。しかし、この
プロジェクトの御蔭で、その後SETIは世界中で行われるようになっていったのです。
1970年代始めに打ち上げられた惑星探査機パイオニア10号、11号には地球外知的
生命に向けてのメッセージが書き込まれた金属板を搭載されています。この金属板には
太陽系の位置や、パイオニアがその第3惑星の地球から打ち上げられたこと、人間の
男女の全身像などが描かれています。 1974年にはカール・セーガンとフランク・ドレークらが人類最初の星間メッセージを
アレシボ電波望遠鏡からある星団に向けて送信しました。このメッセージは1679のパルス
信号で構成されています。この信号を素数である23×73のマス目に並べ変えることで、
地球人の姿や、DNAの形などが解るようになっています。このように、素数を用いた方法に
よって信号を特徴付け、自然に発生する電波とは区別できるようになっているのです。
1977年に打ち上げられた惑星探査機ボイジャーには、純金製のレコード盤が積まれて
いて、そのレコードには人類の様々な言語、赤ちゃんの泣き声、地球の写真、ナバホ・
インディアンの儀式の歌、日本の尺八、ペルーの結婚式の歌、バッハ、ベートーベン、
モーツアルト等のクラシック曲からフォークまで地球のヒット曲の数々が収録されています。
1992年にはNASA(アメリカ航空宇宙局)によるSETIが開始され、話題を呼びました。
しかし、このNASAによるSETIは、NASAの火星探査機マーズ・オブザーバーの事故によって
開始からわずか1年で予算をカットされてしまいました。その後、民間の資金を導入して
フランク・ドレークとジル・ターターが再開したSETIが「フェニックス計画」と呼ばれるプロ
ジェクトで、現在もこの活動は続いています。
第3章「SETIの現在の状況」
現在、SETIの一番新しい計画として、99年4月に「SETI@home」が開始されています。
これはインターネットに接続している世界中のコンピュータの余分な時間を利用して
アレシボ天文台で受信したデータを解析する、というものです。SETIでは、そのプログラムを
組み込んだスクリーンセイバーをWeb上で無料で配布し、個人や会社などで設定して
使ってもらうことで、SETIに掛かる膨大な手間と時間を世界中のパソコンのユーザーに
負担してもらうのです。この計画は画期的なもので、インターネットが普及してパソコンが
「一家に一台」、「一人一台」の今の時代だからこそできる、最新のSETIなのです。解析は
今この時間にも刻一刻とそれぞれのパソコン上で行われ、いつ宇宙人からのメッセージが
発見されるかもしれない状態なのです。
第4章「SETIの社会意義」
確かにSETIに資金を費やし、実際に宇宙人の存在が明らかになった所で、社会に直接
貢献できるものではないかもしれません。それにメッセージの交換には光速の問題から
気の遠くなるような時間がかかることでしょう。実際、宇宙人がいるかどうかを調べるのは
あまり現実的でない、と考えられているからこそNASAはSETIの予算をカットしたのであり、
また世間からも常に批判がなされています。
H・G・ウェルズ的に考えれば、SETIによる宇宙人の存在の発見のメリットは、「迫り来る
宇宙人の襲撃に際して、争い事の耐えなかった地球人が初めて一致団結する」、と言った
所でしょうか。確かにそれもありうる話です。しかしもっと身近に考えてみると、SETIに
よって私たちは今何を理解したか、「地球の大切さ」ではないでしょうか。皮肉なことでは
あるけれど、SETIによって、私たちは今まで以上に地球の孤独さや貴重さを思い知らされた
ような気がします。今の所、知的生命体と思われるのは私たち人間だけなのです。だから
と言って人間至上主義者になる訳ではなくて、この太陽系に住む知的生命体としての
責任を果たさねばならない、ということです。地球人の地球人たる自覚とでも言うべきもの、
それを与えてくれるのがSETIなのではないでしょうか。
もしかしたら宇宙人はもう近くまで来ていて、私たちがそのことに気付き、宇宙連合に
仲間として迎え入れられる最終条件を満たすのを月の裏側かどこかで待っているのかも
しれません…。
以上