流跡線解析ツールSPIRALの開発


Last update: 2008/03/11 川岸諒子

はじめに

 近年、エネルギー消費の拡大に伴い大気汚染物質の放出量が増加しており、地球環境問題となっている。大気汚染物質の起源や輸送経路の推定するためには、大気中の3次元的な物質輸送をシミュレートする数値モデルが必要である。そこで流跡線解析ツールSPIRALの開発を行った。
 流跡線解析とは、任意の地点を任意の時刻に通過する空気塊が移動する経路を、風速や気温などの気象データをもとに時間軸にそって算出する手法のことである。空気塊がどこから来たのか時間を遡って計算することを後方流跡線解析、どこへ行くのか時間を進めて計算することを前方流跡線解析をいう。後方流跡線解析は大気汚染物質の由来や輸送経路の推定によく用いられる。
 SPIRALの開発は、大気研究において流跡線解析が必須になってきていること、既存の流跡線解析ツールをブラックボックスとして使用しているのでは対応が難しい詳細な解析を行えるようにし、大気環境研究へ応用していくことを目的としている。

モデルの概要

 流跡線解析は、次の式に風速データを与え、時間積分を行うことにより空気塊の経路を求める。

 λ, φ は経度と緯度(rad)、p は気圧(hPa)、u, v は風速の東西成分と南北成分(m/s)、ω は風速の鉛直成分(Pa/s)、re は地球の半径(m)である。

SPIRALの主な仕様は次の通りである。

初期条件 計算開始時刻、計算終了時刻、時間増分、空気塊の初期位置
(経度、緯度、高度(気圧、高度、温位のいずれかで指定))
複数の初期位置を指定し、同時に計算することも可能
時間積分方向 前方/後方  から選択
時間積分方法 オイラー法、2次ルンゲクッタ法、4次ルンゲクッタ法 から選択
内挿法 線形補間
高度決定方法 等圧面法、3次元法(鉛直風)、等温位面法 から選択
空気塊数 10000個まで
出力形式 時刻、空気塊の位置(経度、緯度、気圧、高度)、気温、温位

現在の使用可能な気象データは次の通りである。

ECMWF/TOGA
basic level III data
Consolidated data set
A Forty-Year European Re-Analysis
(ERA-40)
NCEP/NCAR ReAnalysis
(ReAnalysis1)
データ形式 GRIB形式 NetCDF形式
時間間隔 12時間(00, 12 UTC)
6時間
(00, 06, 12, 18 UTC)
6時間
(00, 06, 12, 18 UTC)
水平分解能 2.5°/ 2.5°
鉛直層 21層
(1000, 925, 850, 700, 500, 400, 300, 250, 200, 150, 100, 70, 50, 30, 20, 10, 7, 5, 3, 2, 1hPa)
15層
(21層から250, 7, 5, 3, 2, 1hPaを除く)
23層
(1000, 925, 850, 775, 700, 600, 500, 400, 300, 250, 200, 150, 100, 70, 50, 30, 20, 10, 7, 5, 3, 2, 1hPa)
17層
(1000, 925, 850, 700, 600, 500, 400, 300, 250, 200, 150, 100, 70, 50, 30, 20, 10hPa)
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流跡線解析結果の可視化例

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