大気中のオゾン(O3)の大半は成層圏に存在し、対流圏にあるオゾンの総量は大気中のオゾン総量の10%に満たないが、地球大気の中で重要な役割を担っている。オゾンは紫外域ばかりでなく赤外域にも吸収帯をもっており、対流圏オゾンは温室効果ガスの一つである。この対流圏オゾンによる温室効果は、特に対流圏界面近くで顕著になると言われており、IPCC(2001)においても、対流圏オゾンは、二酸化炭素、メタンに次いで3番目に影響力のある気体とされている。特に北半球ではCO2に次ぐ放射強制力を示す温室効果気体であると言われている。そして、対流圏(地上〜高度約10km)のオゾンは反応性が高く、大気中でOHラジカルを生成させ、これがメタン等と反応するため、これら温室効果ガスの大気中濃度に影響を与えている。
また、対流圏オゾンは、大気汚染の原因の一つであるオキシダントの大部分を占め、光化学スモッグを引き起こして、世界の多くの地域で人間の呼吸機能や皮膚、森林、農作物などに有害な影響を与えている。
対流圏オゾンの供給源は、成層圏からの流入と対流圏での光化学反応による生成である。成層圏からの流入は、中高緯度の低気圧活動に伴う圏界面の折れ込みや寒冷渦付近での圏界面の不安定化等によって起こる。その発生場所は、ジェット気流の蛇行と密接に関連しているのが特徴である。光化学反応による生成は、日射のもとで窒素酸化物が一酸化炭素が炭化水素類と反応する事によって起こる。一方、対流圏オゾンの消滅は、水素酸化物等との光化学反応や地表などとの接触である。そのため、陸上の地表に近いところでは、一般的に日射による生成と対流による上空からの混合が盛んな昼間に濃度が上昇し、大気が安定する夜間に地表との接触によって濃度が下がるという日変化をする所が多いということが知られている。
対流圏オゾンは19世紀の終わり頃に比べ、少なくとも2〜3倍に増加していると言われている。このような長期的増加による温室効果が懸念されているため、解析を行う事により、対流圏オゾンの長期傾向と空間分布を明らかにする事を目的としている。
解析では、気象庁が提供するオゾンゾンデデータを使用している。
オゾンゾンデは、地表付近から高度30km付近まで、オゾン濃度の鉛直分布を測定するものである。
観測地点は、札幌、つくば、鹿児島、那覇の日本の4地点であり、観測期間はそれぞれ、
- 札幌 (北緯43°、東経141°) : 1968年12月〜2005年12月
- つくば(北緯36°、東経140°) : 1968年11月〜2005年12月
- 鹿児島(北緯31°、東経130°) : 1968年12月〜2005年 3月
- 那覇 (北緯26°、東経127°) : 1989年 9月〜2006年 2月
圏界面までのオゾン気柱量を積分し、対流圏オゾンとする。
今後は高度別、季節別での解析なども行い、詳しくデータを解析していく予定である。各地点での増加、減少の原因解明なども含め、さらなる時系列解析を行っていきたい。