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2015/01/22: 火星大気に関する論文が、米国の学術雑誌(Journal of Geophysical Research, JGR)に掲載

本研究室の野口克行助教、池田さやかさん(博士前期課程1年)らが執筆した論文(Noguchi et al. [2014])が、米国の地球科学関連の専門誌であるJournal of Geophysical Research (JGR): Planetsに掲載されました。

この論文は、火星探査機によって行われる気温観測(電波掩蔽観測)の導出手法の改良に焦点を当てています。電波掩蔽観測では、惑星探査機から地球に向けて送信された電波が惑星大気中を通過する際に受ける変調を解析することで、惑星の気温の高度分布を導出することが可能です。気温を導出する際には、その惑星の大気組成比の仮定が必要となります。既に、過去の探査機による観測により平均的な火星大気組成比が得られているため、従来の電波掩蔽観測ではこのような値を標準値として気温を導出してきました。

しかし、実際には火星の大気組成比は季節によって変動することが知られています。冬になると北極・南極は極夜となり、大気主成分の二酸化炭素が凍結してしまうほどの低温になってしまうのです。一方で、二酸化炭素以外の成分である窒素やアルゴンはその温度では凍結せずに大気中での量が維持されるため、これら成分の組成比が変わることになります。

そのため、二酸化炭素の減少の影響を強く受けると思われる極夜領域では、従来の標準的な大気組成比を用いると気温が高く導出されてしまう可能性があります。このような問題は既に知られていましたが、極夜における火星大気の組成比の直接的な観測が無かったため、今まで解決されてきませんでした。

我々はこの問題を解決するため、まず二酸化炭素の凍結による大気組成比の季節変動を推定し、経験モデル化する方法を考案しました。過去の火星探査機によってアルゴンの観測が行われており、この観測結果を利用して極夜における大気組成比の変動を推定することにしたのです。まず、上述したようにアルゴンと窒素は極夜でも凍結しないことに着目し、アルゴンと窒素の組成比の関係は変わらないと仮定することができますので、アルゴンの値から窒素の値を求めることができます。次に、窒素とアルゴン以外は全て二酸化炭素であると仮定することで、主要3成分の大気組成比をモデル化することに成功しました。

この大気組成比モデルを電波掩蔽観測の気温導出過程で用いることで、極夜での二酸化炭素の凍結を考慮した気温の高度分布を得ることができました。

さらに、再導出された気温を用いて統計的な解析を行い、二酸化炭素の過飽和現象が従来考えられていたよりも頻繁に大気中で発生している可能性を示唆しました。

本研究成果により、極夜において大気主成分が凍結すると言う特異的な現象が、火星気象に対して局所的・全球的にどのような影響を与えるのか、より深い理解がもたらされると期待されます。

論文タイトル:Estimation of changes in the composition of the Martian atmosphere caused by CO2 condensation from GRS Ar measurements and its application to the rederivation of MGS radio occultation measurements (当該論文掲載のWebページ)
掲載雑誌名Journal of Geophysical Research: Planets, 119 (12), 2510-2521.
著者:Noguchi, K., S. Ikeda, T. Kuroda, S. Tellmann, and M. Pätzold