第4回ゼヒュロスの会シンポジウム 講演予稿

入江仁士 「OMI対流圏NO2データの検証」

オゾンやその前駆気体(NOx等)の対流圏観測は必ずしも系統的に実施されてきたとは言い難く、それら汚染物質の時空間分布の定量的理解には未だ至っていない。一方、アジアでは急速なエネルギー需要の増大の結果として大気汚染が深刻化している。このような背景の下、ここ10年のあいだに低軌道周回衛星(LEO)に搭載された紫外可視センサー(GOME, SCIAMACHY, OMI, GOME-2)によって地球規模での観測が行われ、それらのデータ利用が盛んになりつつある。しかし、とくにアジア域で得られた衛星データについてはその検証に不可欠な独立観測が著しく不足しており、定量的な研究を困難にさせている。こういった問題を克服するために、地球環境フロンティア研究センターでは2005年から日本および中国でMAX-DOAS法(多角度−差分吸収法)を利用して地上から対流圏NO2の観測を実施している。本講演では、MAX-DOASデータと最新のOMI対流圏NO2カラムデータ(version 3)との比較を行い、その結果を欧米の検証結果を交えて議論したい。

野口克行 「GOME/SCIAMACHY/OMIで観測された東アジア域における二酸化窒素の時空間分布」

窒素酸化物(NOx)は、自動車の排ガスなど大気中で高温燃焼した際に生じる物質で、大気汚染物質であると同時に対流圏化学においてオゾンの前駆体となるなどの重要な役割を持つ化学種である。NOxのような対流圏中の微量成分を全球的に観測できる人工衛星センサが近年になって相次いで打ち上げられている。例えば、欧州宇宙機関が打ち上げたERS-2衛星に搭載されているGOMEセンサは、対流圏内の全球的な二酸化窒素(NO2)コラム量分布を明らかにした [Richter et al., 2005]。GOMEの経験を生かしてSCIAMACHY、OMI、さらにはGOME-2といったセンサが打ち上げられ、大きな成果を挙げている。本講演では、これらセンサによって観測された東アジア域におけるNO2の時空間分布の解析結果を紹介する。

瓜田直美 「GOMEで観測された東アジア域対流圏オゾンの季節変動について」

衛星センサーGlobal Ozone Monitoring Experiment(GOME)から導出された対流圏オゾン量とオゾンゾンデ観測によって得られた対流圏オゾン量を用い、東アジア域での対流圏オゾン量の分布や季節変化に着目し解析を行った。GOME観測による対流圏オゾン量を日本におけるオゾンゾンデ観測(札幌、つくば、鹿児島、那覇)によって詳細に検証を行った結果、観測誤差は5±9DU程度であった。また、東アジア域に着目し解析した結果、経度方向に対流圏オゾン量が高い帯(Enhanced Tropospheric Column Ozone(E-TCO)ベルト)が存在していることがわかった。対流圏オゾン量の季節変化の要因として、汚染地域である中国大陸からの流出や上部対流圏の影響などが考えられる。本講演では、E-TCOベルトの振る舞いや対流圏オゾン量の季節変化の要因について示す。

林田佐智子「オゾンゾンデで観測された空気塊の起源と対流圏オゾンの季節変化の対応」

那覇、鹿児島、つくば、札幌で行われた過去のオゾンゾンデで観測された対流圏オゾン濃度を後方流跡線解析によって空気塊の起源別に分類し、その特徴を報告する。中国の大気汚染地域からの空気塊だけを選別して、境界層と下部対流圏のオゾン濃度の長期傾向を調べたところ、2002年以降のデータを追加してもNaja and Akimoto(2002)が報告した傾向と同様で2000以降の対流圏オゾンの増加傾向は得られなかった。一方、衛星から得られた対流圏気柱量の広域分布の季節変動パターンは、オゾンゾンデ観測から得られる特徴とよく一致したが、オゾンゾンデ観測結果の高度別の解析結果から、気柱量のかなりの部分は対流圏上部に起因していることが明らかであった。気柱量の分布にみられる特徴を理解するためには長距離輸送の影響や成層圏からの流入の影響についての定量的評価が不可欠であることを提示する。

永島達也 「対流圏オゾンの起源:タグ付きトレーサー実験による解析」

日本ではここ20年の間、オゾン前駆物質であるNOxやNMHCsの濃度は減少しているにもかかわらず、光化学オキシダント濃度は増加を続けていることが知られています。また、局所的な汚染の影響が少ないと思われる島嶼や山間の観測サイトでもオゾンの増加が報告されており、こうした日本における地表オゾンの増加の原因として、中国などからの越境大気汚染が大きく影響を与えている可能性が指摘されています。しかしながら、原因を中国などからの越境大気汚染と特定するためには、日本国内での発生量やアジア以外の地域から輸送されるオゾン量など、その他の要因も含めた定量的な発生源別の寄与率推定を欠かすことは出来ません。そこで、タグ付き輸送モデルを用いて日本における地表オゾンの発生源別寄与率推定を行いましたので、その結果を紹介させていただきます。また、時間が許せば、領域大気質モデルを用いたアジア域のオゾン経年変化の再現実験の結果なども紹介する予定である。

有山悠子 「SCIAMACHY観測によるメタンデータの検証とアジアの水田からのメタン放出について」

SCIAMACHYで観測されたメタンデータは、ハイデルベルグ大学とブレーメン大学がそれぞれリトリーバルを行っている。両大学からデータの提供を受けることが可能となったため、地上観測データと比較し検証を行った。結果は、両大学のデータともに、同じような傾向で地上観測データと差が生じた。メタンのソースが多く分布すると思われる地点ではこの差が大きくなったが、差が数%におさまり、また衛星観測誤差内にほぼおさまっているため良好なデータであると結論付けた。また、ハイデルベルグ大学のデータを用いて、Edgarのエミッションインベントリーとの比較を行った。さらに、アジアの水田分布地帯でのメタン濃度を解析し、衛星が水田から放出されたメタンをとらえている可能性を示した。

佐伯田鶴 「メタンの観測データと大気輸送モデルの比較」

二酸化炭素やメタンなどの温室効果気体の全球収支に関する知見を得るために、近年、従来の地上・航空機観測に加えて、広範なデータが得られる衛星観測の利用が注目されている。対流圏メタンに関しては、ESAのENVISAT/SCIAMACHYによる観測が開始されており、日本においてもGOSAT衛星の打ち上げが予定されている。温室効果気体の収支解明に向けて衛星観測データを有効に利用するためには、数値モデルに解析が不可欠である。本発表では、大気輸送モデルを用いたメタン観測データの解析例を示すとともに、衛星観測データを加えた解析手法の展望について紹介する。

北和之  「静止衛星からの大気微量成分観測の検討状況」

 

中里真久  「衛星と地上設置型ライダーによる対流圏オゾンプロファイルの観測の可能性」

近年、衛星から対流圏オゾンのプロファイルの観測が可能となってきている。現在のオゾン観測衛星(GOME、GOME-2)の対流圏における高度分解能は数kmであり、対流圏を2〜3の高度領域に分ける程度だが、今後、分解能が向上してくると、対流圏オゾンに関する様々な現象が分かるようになると期待される。また、観測データの検証実験や地上設置型センサーとのシナジーの必要性も増すであろう。高度分解能が高い観測により、どのような大気現象が観測できるかを、地上設置型の対流圏オゾンライダーのデータを例に紹介し、将来の衛星からの対流圏オゾン観測データの検証などについても言及したい。