火星大気 / Mars, the red planet

本研究室では、観測データに基づいた火星大気の研究を主に進めています。下記の研究紹介もご参照ください。
どんな研究をしているのですか?(火星研究の紹介)

赤外観測を用いた火星大気のダスト・水氷雲の研究 / Martian dust and clouds probed by infrared spectroscopy

赤外域における分光観測により、火星大気に浮遊するダストや水の氷雲の情報を得ることができます。本研究室では、長期間蓄積された探査機データを利用し、火星年(約2地球年)毎の違いに着目しながら、研究を進めています。

Figure 1: High Altitude Tropical Dust Maximum (HATDM) observed by MCS onboard MRO. Plotted is logarithmic dust opacity normalized by atmospheric density [m2 kg−1].

左の図は、米国の火星探査機Mars Reconnaissance Orbiter (MRO)に搭載された赤外放射計(MCS)センサによるダスト消散係数の緯度・高度断面図です。ダストは、火星大気の上空で浮遊しながら太陽光を吸収することで直接大気を温めるため、火星気象・気候に大きな影響を与えます。そのため、ダストがいつどこにどのようにして分布しているかを知ることが大切なのですが、ダスト分布の謎の一つに、赤道付近の上空に現れるダスト増大(HATDM)が挙げられます。火星においてダストは一般的に地表から巻き上げられるため、高高度に行くほどダスト濃度は薄くなるはずです。そのため、高高度にこのような高濃度ダストが現れることは一見不自然だと思われます。本研究室では、最新の観測であるMRO/MCSデータを利用し、大量の長期間データの解析を行なうことで、この謎に迫ります。

電波掩蔽観測による火星大気熱構造の研究 / Thermal structure of Martian atmosphere probed by radio occultation

電波掩蔽観測では、惑星探査機から地球に向けて発信した電波が惑星大気を通過する際に、大気の影響により変調を受けることを利用して、大気の気温・気圧の高度分布を得たり、電離圏の電子密度を得たりすることができます。本研究室では、特に極夜領域で火星大気主成分である二酸化炭素(CO2)が低温により飽和・凝結する現象に着目し、研究を進めています。

右の図は、米国の火星探査機Mars Global Surveyor (MGS)で実施された電波掩蔽観測による北半球の極夜における気温観測の一例を示しています。経度方向には、1日の間にほぼ同じ地方時(LT)で得られた気温の高度分布が経度ごとに並べられています。MGSは極軌道を持っており、火星の自転に伴い少しづつ観測できる経度がずれて行きます。このことを利用し、同じ地方時におけるさまざまな経度での気温の高度分布を得ることが可能になります。図を見ると、100Paより下層では、気温がCO2の凝結温度以下になる過飽和現象(赤点)が発生していることがわかります。このようなCO2の過飽和は、極夜では頻繁に観測されています。本研究室では、過飽和現象と大気波動との関係に着目しながら、このように微細な鉛直熱構造の研究を進めています。

Figure 2: Vertical temperature profiles obtained by the MGS radio occultation measurements. Red points indicate the temperature with CO2 supersaturation.