どんな研究をしているのですか?

火星大気の研究 ~大気が"コオル"惑星~

赤い惑星、火星

当研究室では、主要な研究対象として火星大気に着目をしています。

火星は地球以外での生命誕生の可能性を議論されるなど、近年特に注目されている惑星です。生命誕生には、温暖な気候を保つために大気の存在が重要な役割を果たしたと考えられています。

また、火星は自転軸が傾いているために四季があり、自転周期も24時間強と、地球に似た点の多い惑星です。

ダストと雲が浮かぶ空

右の写真は、火星探査車「オポチュニティ」がとらえた火星地表面における写真です。 赤茶けた岩石や砂に覆われた砂漠のような大地の上に、オレンジや黄色がかったような空が見えます。 大気中には細かなちり(ダスト)が浮遊し、地球と同じように雲が掛かっているのがわかります。

火星大気は、地表でも地球の100分の1程度の気圧しかなく、非常に希薄な大気です。 しかし、写真のように雲やダストが大気中に観測され、また地球と似たような低気圧・高気圧のシステムがあることもわかって来ています。

ドライアイスの雲や霜

地球大気における雲や氷は水(H2O)によるものですが、火星大気においては水だけでなく主成分である二酸化炭素が大気中で凍ってドライアイスの雲になったり、雪や霜となって地表を覆う現象が見られます。 極域の地表面では、極冠と呼ばれるドライアイスの堆積が見られます。

地球大気は、主に窒素と酸素でできていますが、窒素や酸素が凍ったり(液化したり)する温度は-200℃前後であり、通常の地球大気の環境下では大気が凍ったり(液化したり)することはありません。 しかし、火星の場合、場所や高度によっては気温が-120℃から-150℃近くにまで下がるのですが、この温度だと火星大気の主成分である二酸化炭素が凍ってしまう温度なのです。

凍る大気を科学する

右のグラフは、火星探査機「マーズグローバルサーベイヤー」が観測した気温の高度分布の一例です。 赤色の線が観測された気温、青い線はその高度(気圧)にて二酸化炭素が気体でいられなくなる温度(飽和温度)です。 飽和温度になると、二酸化炭素はドライアイスとなり大気は凍り始めるはずです。

それにも関わらず、観測された気温が飽和温度よりも低いという事は、「過飽和」という現象が生じていると考えられます。 本来であれば、飽和温度以下では気体として存在できないはずなのですが、徐々にゆっくりと冷やしていくと少しだけ飽和温度以下になること(過冷却)が知られています。 この場合、外から何らかのエネルギーが加わったり、凝結の核となるような物質が存在すれば、一気に凝結を始めます。 すると、気体の時に蓄えていた潜熱を放出し、大気が急に温まり、周りの大気よりも暖かくなって対流を生じさせる可能性があります。活発な対流活動は、局地的な影響に留まらず全球の大循環にも影響を与え得る現象です。

火星大気における二酸化炭素の凝結は、極夜で大規模に起きていると考えられており、それが20-30%にも及ぶ大気量の減少を引き起こしています。つまり、地表での気圧がそのくらいの割合で季節変化するのです。地球における大気圧の変動は高気圧・低気圧や台風などによって引き起こされますが、1013hPaの標準気圧に対して高々2-3%程度です。 火星大気の二酸化炭素の凝結に伴う大規模な気圧変化は、気候にも大きな影響を与えていると考えられています。

このような大気主成分の二酸化炭素の過飽和が火星大気にどのような影響を与えているのか、探査機による観測データや計算機によるシミュレーション結果などを駆使して解明していきたいと考えています。