奈良女子大学人間文化研究科複合現象科学専攻

2010年度 数学・物理学・情報科学の研究交流シンポジウム

日時:2010年12月11日(土)

場所:奈良女子大学理学部会議室

プログラム

10:00~10:50「多重連結領域の点渦力学」 坂上貴之(北海道大学大学院理学研究科数学部門)

11:00~11:50「解析を用いた整数論」 市原由美子(奈良女子大学理学部数学科)

11:50~13:20 昼休み

13:20~14:10「宇宙に潜む暗黒加速器」 松本浩典(名古屋大学現象解析研究センター)

14:20~15:10「宇宙でダイナミックに進化する銀河団を捉える」 太田直美(奈良女子大学理学部物理科学科)

15:30~16:20「アメーバが迷路を解く話」  手老篤史 (JSTさきがけ)

16:30~17:20「生物学における個体群動態の数理」 高須夫悟 (奈良女子大学理学部情報科学科)

18:00~ 懇親会

----- 講演要旨 -----

「多重連結領域の点渦力学」 坂上貴之(北海道大学大学院理学研究科数学部門)  

領域の中に多くの島や障害物を含むような多重連結領域を 考え,その上での二次元非粘性・非圧縮流体の運動を考える. こうした流れの問題は昆虫の飛翔,風力発電のプロペラさらには 河川や湖沼における流れの数理モデルとして利用できるので, こうした数学理論を展開することは応用上も重要である.  これに対して,二次元非粘性・非圧縮流体では渦度と呼ばれる 量が流体粒子の軌道に沿って保存される保存量であるという事実 に基づいて,流れを多体点渦の相互作用として定式化できる. これを点渦力学と呼ぶが,本講演では多重連結領域における 点渦力学の構成とそのいくつかの応用について紹介したい.

「解析を用いた整数論」 市原由美子(奈良女子大学理学部数学科)

素数定理の証明にはリーマンゼータ関数が密接に関わっている。 その様子や、素数とリーマンゼータ関数の零点との関係を紹介する。 このような解析的な素数分布の研究手法は他の数論的興味対象の 研究にも有効である。楕円曲線のL関数に関する話題にも触れたい。

「宇宙に潜む暗黒加速器」 松本浩典(名古屋大学現象解析研究センター)

宇宙線とは、宇宙空間を飛び交う高エネルギーの素粒子です。発見 から100年以上を経過した現在でも、どこで宇宙線が誕生するのか よくわかっていません。近年、技術の発達により、超高エネルギー ガンマ線で輝くのに、他の波長の光をほとんど出さない天体が見つ かりました。ガンマ線は高エネルギー粒子の発生を意味するので、 これらの天体は「暗黒加速器」と名づけられ、宇宙線の故郷ではない かと考えられ始めました。暗黒加速器の正体をつきとめるには、ガ ンマ線以外の光で高感度観測を行うより他はありません。我々は、 かつてない高感度を備えた日本のX線天文衛星「すざく」で、 暗黒 加速器からの微弱なX線を捕まえることに成功しました。このことは、 暗黒加速器で宇宙線陽子が誕生していることを示唆しています。 また、一口に暗黒加速器といっても、いろいろな種類がいることが わかってきました。本講演では、暗黒加速器に関する最新のX 線・ガン マ線観測情報を紹介いたします。

「宇宙でダイナミックに進化する銀河団を捉える」  太田直美(奈良女子大学理学部物理科学科)

宇宙では、星は集まって銀河となり、銀河が集まって銀河団を成し、 それらがさらに連なって大規模構造を作っていることが知られます。 では膨張を続ける宇宙のなかで、銀河や銀河団のような大きな天体は、 いつどのように生まれ、進化してきたのでしょうか? 近年の宇宙 マイクロ波背景放射の観測により宇宙モデルが精度よく決定された 一方で、その中での天体形成や大規模構造の進化を理解することが 現代の宇宙物理学の大きな課題の一つになっています。我々は天体 の放つ様々な波長の電磁波を人工衛星や地上望遠鏡で観測すること で、これらの問題に挑んでいます。本講演では、最近のX線観測が 明らかにした驚くほどダイナミックに進化する銀河団の姿や、将来 の日本の大型衛星計画についても紹介する予定です。

「アメーバが迷路を解く話」  手老篤史 (JSTさきがけ)

真正粘菌Physarum polycephalumの変形体はアメーバ状のどろっと した生き物であるが、興味深い性質を持っている。その一つが迷路 を解く能力である。例えば、粘菌は2ヵ所の餌に接触すると最短経 路上を管のような構造をしたもので繋がりながら餌のまわりに集まる。 だがしかし粘菌はどのようにして迷路を解くのだろうか。今回のセミ ナーではこれらの粘菌のふるまいを数式で表現し、粘菌が迷路を解く メカニズムについて説明する。また、それにより最短経路問題や最適 ネットワーク問題に応用させる事によって得た新しい解法を紹介する。

「生物学における個体群動態の数理」 高須夫悟 (奈良女子大学理学部情報科学科)

生物個体の数の時間変動(個体群動態)の理解は、学術的な興味 のみにとどまらず、生物資源の管理や感染症の予防対策などの様々 な実用的問題にも応用可能な側面を持つ。個体群動態の数理的研究 の多くは、連続量としての集団サイズを力学系として記述すること から出発する。しかし現実系の個体群動態では、個体を単位とする 動態、すなわち離散量としての集団サイズの動態、を経るため、 希少種の絶滅(集団サイズがゼロ)が起こりうる。本講演では、 個体を単位とする個体群動態の様々な数理的手法について紹介する と共に、現在講演者が取り組んでいる諸問題について、数学・物理 学の観点から議論を交わす場としたい。